当研究室で得られた研究成果の一部をご紹介します。


2019年2月 電子液晶がもたらす不思議な金属状態を発見

2018年9月 金属でも絶縁体でもない前例のない電子状態を発見

2018年5月 & 7月 量子スピン液体状態においてマヨラナフェルミオン励起を観測

2018年1月 & 5月 電子液晶がもたらす超伝導電子対形成への影響が明らかに

2018年2月 世界で初めて重い電子系化合物薄膜のその場STM観察に成功

2017年7月 高温超伝導体における四半世紀の謎を解明 −空間的に非対称性な新しい電子秩序状態を発見−

2017年6月 38年を経て明らかになった非従来型超伝導の「先駆け」物質CeCu2Si2の電子状態

2016年8月 BCS-BECクロスオーバーに起因した巨大超伝導揺らぎを発見

2016年6月 BiS2系超伝導体NdO0.71F0.29BiS2は従来型のs波超伝導体

2016年5月 重い電子系の人工超格子で量子臨界性の人工制御に成功

2016年2月 量子スピンアイスにおいて磁気モノポールのバリスティックな伝導を観測

2015年8月 時間反転対称性の破れた超伝導状態が明らかに

2014年12月 超伝導ゆらぎによる巨大熱磁気効果の発見

2014年11月 BCS-BECクロスオーバー領域にある特異な超伝導状態が明らかに

2014年6月 重い電子系化合物URu2Si2の「隠れた秩序相」で対称性の破れを直接観測

2013年2月 量子ゆらぎにより超伝導電子が特定の方向でのみ重くなることを明らかに

2012年10月 局所的反転対称性の破れによる重い電子超伝導の異常を観測

2012年9月 モット絶縁体が示す新しい量子スピン液体相の存在を明らかに

2012年7月 重い電子系化合物URu2Si2の「隠れた秩序」相における電子構造を解明

2012年6月 超伝導体が絶対零度で示す新しい臨界現象を発見

2012年6月 鉄系高温超伝導体において「電子のネマティック液晶状態」を発見

2012年1月 同形超伝導体LiFeAsとLiFePの対照的な超伝導状態を明らかに

2011年10月 重い電子の人工超格子で「超強結合」超伝導を実現

2011年8月 鉄系超伝導体BaFe2(As,P)2のギャップ構造を決定

2011年1月 ウラン化合物における四半世紀の謎を解明

2010年6月 量子スピン液体におけるギャップレス励起の発見

2010年6月 鉄系高温超伝導体のギャップ構造の多様性を明らかに

2010年2月 重い電子系の人工的な2次元化に成功

2010年2月 鉄系高温超伝導体のフェルミ面に多体効果が明らかに

2009年5月 新鉄系高温超伝導体の超伝導電子密度の異常な不純物効果

2009年4月 重い電子系URu2Si2の「隠れた秩序」相内に新たな相転移を発見

2009年3月 鉄砒素系超伝導体の下部臨界磁場を新しい手法で評価

2009年1月 新鉄系高温超伝導体のギャップにゼロ点がないことを解明


2008年までのhighlights→research highlights -2008


電子液晶がもたらす不思議な金属状態を発見  ページのTopへ

 近年の研究では、電子集団は、ある一方向へと揃おうとする液晶状態になることが、銅酸化物高温超伝導体や鉄系超伝導体など、従来の物理学が通用しないような物質群で明らかになってきています。電子の液晶状態が、化学組成や圧力などの変化によって絶対零度まで完全に抑制された消失点(臨界点)の近傍では、量子力学的揺らぎによって電子集団は依然として一方向へ揃おうとする非常に「やわらかい電子状態」を実現します。そのような「やわらかい電子」がどのような金属的性質を示すのか理解することは、新しい機構による超伝導など、物質が示す特異な電子状態を実現するための鍵になると考えられていますが、これまで、純粋な「やわらかい電子」が示す金属状態がどのようなものかは未解明となっていました。今回我々は、鉄系超伝導体FeSe1-xSxの電子液晶状態に着目し、強磁場中での輸送現象測定を行いました。その結果、電子液晶の消失点周辺で、温度の一乗に比例して電気抵抗が変化する不思議な金属状態が現れること、さらにその領域では、電子の有効質量が増大していることを発見しました。このような不思議な金属状態はストレンジメタルとよばれ、高温超伝導を引き起こす鍵と考えられてきました。ストレンジメタルは、今まで磁気的機構によるものが提案されていましたが、今回の成果は、量子効果によって液晶状態になろうとする「やわらかい電子集団」が示す新しいタイプの不思議な金属状態を初めて観測したものです。このような「やわらかい電子」の研究は、今後、物質が示す特異な電子状態に対する新たな指針を与えると考えられます。(Posted by S.K.)


FeSeS_Nature

"Electrical resistivity across a nematic quantum critical point"
S. Licciardello, J. Buhot, J. Lu, J. Ayres, S. Kasahara, Y. Matsuda, T. Shibauchi, N. E. Hussey,
Nature (2019).

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金属でも絶縁体でもない前例のない電子状態を発見  ページのTopへ

 物質には、電気を流す金属と流さない絶縁体の2種類が存在します。金属はフェルミ面を持つことを特徴とし、金属の示す様々な性質の殆どはフェルミ面によって決定されるため、フェルミ面は金属の「顔」と言えます。強磁場中で電気抵抗や磁化が示す量子振動は、フェルミ面の存在を示す直接的な証拠を与えますが、フェルミ面を持たない絶縁体では通常、量子振動は期待されません。本研究で注目した物質は、電子相関効果により絶縁体となる近藤絶縁体と呼ばれる希土類化合物に着目しました。近藤絶縁体の一つである12ホウ化イッテルビウム(YbB12)の超純良単結晶において超磁場中で高感度磁化測定および精密電気抵抗測定を行ったところ、磁化だけでなく電気抵抗における量子振動を観測しました。このような「絶縁体の量子振動」の観測は前例がなく、電気的絶縁体がフェルミ面を持つという従来の常識を覆すものです。つまり、YbB12は絶縁体とも金属とも区別することができない不思議な電子状態を持つことが示唆されます。 (Posted by Y.K.)

YbB12

"Quantum oscillations of electrical resistivity in an insulator"
Z. Xiang, Y. Kasahara, T. Asaba, B. Lawson, C. Tinsman, Lu Chen, K. Sugimoto, S. Kawaguchi, Y. Sato, G. Li, S. Yao, Y. L. Chen, F. Iga, John Singleton, Y. Matsuda, Lu Li,
Science 362, 65-69 (2018).

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Physics Worldに紹介記事が掲載されました。

* Perspective article: N. P. Ong, Science 362, 32-33 (2018).

量子スピン液体状態においてマヨラナフェルミオン励起を観測  ページのTopへ

 粒子と反粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子はマヨラナ粒子と呼ばれ、理論的予言から80年以上もその存在の確証が得られていなかった「幻の粒子」です。最近、マヨラナ粒子がある種の超伝導体や磁性体中で準粒子として現れる可能性が指摘され、大きな注目を浴びるとともに強い期待が持たれています。これまで主に超伝導体の研究から、マヨラナ粒子を観測したという実験結果はいくつか報告されているものの、決定的な証拠が得られたとは言い難く、論争が続いています。そのような中、最近、新しい物質系として磁性絶縁体が注目されています。2次元蜂の巣格子をもつ磁性絶縁体では絶対零度においても電子スピンが整列しない量子スピン液体状態が実現しますが、この量子スピン液体状態の特筆すべき点は、電子スピンが複数のマヨラナ粒子に分裂することにより、トポロジーによって保護された量子状態が実現することです。最近、このような量子スピン液体状態を実現する候補物質がいくつか見つかってきました。今回、候補物質である磁性絶縁体α-RuCl3において、一定の温度下で磁場を変化させながら熱ホール伝導度を非常に高い精度で測定しました。その結果、非常に大きな熱ホール効果を観測し、理論予測によく一致した振る舞いを示すことが明らかになりました。さらに低温の量子スピン液体状態において測定を行った結果、ある範囲の磁場で熱ホール伝導度が磁場や温度によらずに量子力学で規定される普遍的な値 (量子化値)のちょうど半分の値で一定となり、「半整数熱量子ホール効果」の観測に世界で初めて成功しました。この半整数量子化は、マヨラナ粒子の直接的な証拠を与えるものです。中性粒子による量子ホール効果の観測であり、 「第3の量子ホール効果」を発見したとも言えます。本研究成果は、量子スピン液体のトポロジカルな性質を証明したという点においても非常に重要です。 (Posted by Y.K.)

Kitaev-Majorana

"Unusual Thermal Hall Effect in a Kitaev Spin Liquid Candidate α-RuCl3"
Y. Kasahara, K. Sugii, T. Ohnishi, M. Shimozawa, M. Yamashita, N. Kurita, H. Tanka, J. Nasu, Y. Motome, T. Shibauchi, and Y. Matsuda,
Physical Review Letters 120, 217205 (2018);arXiv:1709.10286.

"Majorana quantization and half-integer thermal quantum Hall effect in a Kitaev spin liquid"
Y. Kasahara, T. Ohnishi, Y. Mizukami, O. Tanaka, Sixiao Ma, K. Sugii, N. Kurita, H. Tanaka, J. Nasu, Y. Motome, T. Shibauichi, and Y. Matsuda
Nature 559, 227-231 (2018); arXiv:1805.05022.

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* Perspective article: K. Shtengel, Nature 559, 189-190 (2018).

電子液晶がもたらす超伝導電子対形成への影響が明らかに  ページのTopへ

 鉄系超伝導体FeSeは、非磁性のネマティック相(電子液晶相)をもち、そのフェルミ面は最大でもブリルアンゾーンの2-3%という非常に小さなポケットのみで構成されます。一方、この系の超伝導状態ではBCS-BECクロスオーバー領域にあるような極めて強い電子対形成相互作用が働いており、また、超伝導ギャップ関数は非常に異方的で、純良単結晶を用いた実験では偶発ノードが見出されています。この系の極めて小さなフェルミ面において、なぜ異方的で極めて強い電子対形成が実現し得るのかは大きな謎であり、そのカギとなるのが電子状態のネマティシティ(液晶的な一軸方向性)です。今回我々は、ネマティック相から非ネマティック相に渡って電子状態をコントロールできるFeSe1-xSx系に着目し、準粒子励起に敏感な熱伝導率および比熱の磁場中精密測定を行うことで、超伝導ギャップ構造の変化を系統的に調べました。その結果、ネマティック相では、電子対形成における軌道選択性が重要であり、電子状態の異方性が僅かでも現れると超伝導ギャップ関数が非常に異方的になることが明らかになりました。一方、ネマティック量子臨界点を越えた非ネマティック相でも異方的超伝導ギャップが形成されますが、これはネマティック相のものとは大きく異なることが明らかになりました。 本結果は、電子対形成において、ネマティック揺らぎ(電子の液晶揺らぎ)の軌道依存性が大きな役割を果たしていることを示しており、鉄系超伝導の発現機構の理解に重要な結果と考えられます。(Posted by S.K.)

FeSeS_gap

"Abrupt change of the superconducting gap structure at the nematic critical point in FeSe1-xSx"
Y. Sato, S. Kasahara, T. Taniguchi, X.Z. Xing, Y. Kasahara, Y. Tokiwa, Y. Yamakawa, H. Kontani, T. Shibauchi, and Y. Matsuda,
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 115, 1227-1231 (2018);arXiv:1705.09074.

(追記) 更に我々は、走査型トンネル顕微鏡法/分光法を用いた準粒子干渉実験により、この系の超伝導ギャップとネマティシティの変化を直接的に調べることに成功しました。その結果、ネマティック相において電子が液晶的異方性をもつと、超伝導ギャップが急激に大きくなり、電子対の結合が強くなることが明らかになりました。この結果は、電子状態の一軸的方向性の有無が超伝導に対して大きな影響を与えることを直接示しています。

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"Two distinct superconducting pairing states divided by the nematic end point in FeSe1-xSx"
T. Hanaguri, K. Iwaya, Y. Kohsaka, T. Machida, T. Watashige, S. Kasahara, T. Shibauchi, Y. Matsuda
Science Advances 4, eaar6419 (2018); arXiv:1710.02276.


世界で初めて重い電子系化合物薄膜のその場STM観察に成功  ページのTopへ

 CeやUなどに含まれる局在f電子と伝導電子との相関が織りなす重い電子系物質は、非従来型超伝導や磁気秩序など非常に多彩な相図を持つことから、物性物理分野において大きな注目を集めています。特に、重い電子系超伝導体における不純物周辺の電子状態は、局所的な反強磁性の発生が示唆されるなど、精力的に研究がなされています。そのような局所電子状態を直接的に明らかにする手法として、近年、走査トンネル顕微鏡(STM)測定が大きな注目を集めていますが、重い電子系化合物の試料の小ささや劈開性の悪さなどが原因で、STM測定が重い電子系化合物に適用された例はほとんどありませんでした。そこで今回我々は、分子線エピタキシー(MBE)装置とSTM装置を複合させたシステムを独自に開発し、MBE法によって作製した重い電子系化合物CeCoIn5薄膜のSTM観察に世界で初めて成功しました。また、CeCoIn5に置換した非磁性不純物周辺における局所状態密度観察を行ったところ、示唆されていた不純物周辺での局所的な反強磁性は確認されませんでした。本研究によって、今までほとんどなされていなかった、重い電子系化合物におけるSTM観察が容易となり、局所電子状態の直接観察による重い電子系化合物の研究が大きく加速されることが期待されます。(Posted by M.H.)

MBESTM topo


"In Situ STM Observation of Nonmagnetic Impurity Effect in MBE-grown CeCoIn5 Films"
M. Haze, Y. Torii, R. Peters, S. Kasahara, Y. Kasahara, T. Shibauchi, T. Terashima, and Y. Matsuda
J. Phys. Soc. Jpn. 87, 034702 (2018); arXiv:1802.01230.

高温超伝導体における四半世紀の謎を解明 −空間的に非対称性な新しい電子秩序状態を発見−  ページのTopへ

 1986年に発見された銅酸化物における高温超伝導現象の発現機構解明は、現代物理学における最重要問題の一つです。高温超伝導の発現機構を解明するには、超伝導が起こる前の金属状態の性質を理解することが不可欠です。銅酸化物高温超伝導体では、超伝導を示すよりも高温で、擬ギャップ状態と呼ばれる特異な金属状態が現れることが研究初期より観測されていましたが、この状態がどのようにして生じ、また高温超伝導の発現機構とどのように関連するのかは、四半世紀をこえる高温超伝導の歴史において最大の謎の一つとなっていました。擬ギャップ状態を理解しない限り、高温超伝導の謎は解けないと言われています。今回、我々は、磁気トルク測定によって、擬ギャップ状態での磁気的性質を従来にない高い精度で調べ、その結果、電子が集団的な自己組織化によって配列することで一種の液晶状態に相転移をしていることを発見しました。本研究成果は高温超伝導の発現機構の理解に重要な指針を与えるものと期待されます。 (Posted by S.K.)

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YBCO_torque

"Thermodynamic evidence for a nematic phase transition at the onset of the pseudogap in YBa2Cu3Oy"
Y. Sato, S. Kasahara, H. Murayama, Y. Kasahara, E.-G. Moon, T. Nishizaki, T. Loew, J. Porras, B. Keimer, T. Shibauchi and Y. Matsuda
Nature Physics (2017) doi:10.1038/nphys4205; arXiv:1706.05214.

38年を経て明らかになった非従来型超伝導の「先駆け」物質CeCu2Si2の電子状態  ページのTopへ

 近年、電子同士の相互作用が強い物質群における超伝導体、いわゆる非従来型超伝導体において、高温超伝導を含む新奇な超伝導状態が数多く発見されており、その発現機構の解明は近年の固体物理学における最重要課題の一つとなっています。1979年に発見された重い電子系超伝導体CeCu2Si2は、非従来型超伝導体の先駆け的物質で、1986年に発見された銅酸化物高温超伝導体や2006年に発見された鉄系超伝導体と多くの共通点を示す、超伝導研究の鍵となる物質です。CeCu2Si2における超伝導電子の電子状態は、銅酸化物高温超伝導体と同じd波型であると信じられてきましたが、今回、超伝導ギャップ構造を決定するとともに、不純物効果を詳細に調査することにより、d波型ではなく、秩序変数の符号反転を伴わない、いわゆる従来型のs波型超伝導体であることが明らかになりました。これは、重い電子系超伝導体では磁気ゆらぎに基づいて超伝導が実現する、という広く信じられている定説を覆し、磁気ゆらぎとは別の新たな機構が関与することを示唆しています。この発見は、電子同士の相互作用が強い系における超伝導の研究に新たな指針を与えることが期待されます。 (Posted by Y.K.)

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CeCu2Si2_SA2017

"Fully gapped superconductivity with no sign change in the prototypical heavy-fermion CeCu2Si2"
T. Yamashita, T. Takenaka, Y. Tokiwa, J. A. Wilcox, Y. Mizukami, D. Terazawa, Y. Kasahara, S. Kittaka, T. Sakakibara, M. Konczykowski, S. Seiro, H. S. Jeevan, C. Geibel, C. Putzke, T. Onishi, H. Ikeda, A. Carrington, T. Shibauchi, Y. Matsuda
Science Advances 3, e1601667 (2017); arXiv:1703.02800.

BCS-BECクロスオーバーに起因した巨大超伝導揺らぎを発見  ページのTopへ

 鉄系超伝導体の一つであるFeSeは、低温で異常に小さく浅いバンドのみから構成される特異な電子状態(超シャロウバンド状態)を示し、その量子凝縮状態は、弱い引力相互作用により媒介されたフェルミ粒子対が凝縮するBardeen-Cooper-Schrieffer(BCS)状態と、ボース粒子の凝縮であるBose-Einstein凝縮(BEC)状態の中間(クロスオーバー領域)に位置することが明らかになりつつあります。BCS-BECクロスオーバー領域では、超伝導(超流動)転移温度より高温においても前駆電子対(preformed pairs)と呼ばれるクーパー対の前駆体が形成されることが提唱されていますが、これが実在するのか、更にどの程度高温まで存在し得るのかは、冷却原子系などの他分野まで含めた大きな謎となっています。今回我々は、FeSeにおいて、超高感度磁気トルク測定を行うことで、熱ゆらぎ効果によりもたらされる通常の超伝導揺らぎを遥かに超えた"巨大超伝導揺らぎ"が超伝導転移温度の2倍以上高温から現れることを発見しました。更に、熱電係数測定、及び核磁気共鳴測定からは、状態密度の減少、即ち、擬ギャップの形成を示す結果を見出しました。注目すべき点として、超伝導揺らぎの非線形成分は比較的弱い磁場で急速に抑制されるのに対し、擬ギャップ的振る舞いは高磁場まで顕著に存在することが明らかになりました。これは、擬ギャップをもたらす個々の前駆電子対が磁場中でも比較的安定であるのに対し、各々の前駆電子対間の結びつきである位相揺らぎは、磁場中で急速に抑制されることを示していると考えらえ、BCS-BECクロスオーバー領域にある超伝導についての新しい知見を与えるものです。 (Posted by S.K.)

Kasahara_NatureCommun2016_1

"Giant superconducting fluctuations in the compensated semimetal FeSe at the BCS-BEC crossover"
S. Kasahara, T. Yamashita, A. Shi, R. Kobayashi, Y. Shimoyama, T. Watashige, K. Ishida, T. Terashima, T. Wolf, F. Hardy, C. Meingast, H. v. Löhneysen, A. Levchenko, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Nature Commun. 7, 12843 (2016); arXiv:1608.01829.

BiS2系超伝導体NdO0.71F0.29BiS2は従来型のs波超伝導体  ページのTopへ

 近年、首都大の水口らにより二次元BiS2層を有する新規超伝導体が発見されました。このBiS2系超伝導体の中には超伝導転移温度が10 Kを超える物質もあり、さらに結晶構造と電子構造が鉄系超伝導体と類似していることから、その超伝導発現機構に興味が持たれています。今回、私たちはBiS2系超伝導体NdO0.71F0.29BiS2の超伝導ギャップ構造を決定するため、低エネルギーの準粒子励起に敏感な測定手法である熱伝導率測定を100 mKの極低温まで行いました。測定の結果、ゼロ磁場での極めて小さな残留熱伝導率と、低磁場における残留熱伝導率の非常に弱い磁場依存性を観測し、超伝導ギャップ構造にノードを持たないフルギャップ超伝導であることを明らかにしました。さらにこの系は残留電気抵抗率が大きく、不純物による対破壊効果が弱いという事実を加味することにより、通常のs波超伝導であると結論付けました。この結果は、BiS2系超伝導体の超伝導発現機構を決定する上で非常に重要な結果であると考えられます。(Posted by T.Y.)

日本物理学会による注目論文紹介記事はこちら

BiS2

"Conventional s-Wave Superconductivity in BiS2-Based NdO0.71F0.29BiS2 Revealed by Thermal Transport Measurements"
T. Yamashita, Y. Tokiwa, D. Terazawa, M. Nagao, S. Watauchi, I. Tanaka, T. Terashima, Y. Matsuda
J. Phys. Soc. Jpn. 85, 073707 (2016); arXiv:1601.03502.
*Editors' choice
*JPSJ News and Comments: by K. Kuroki, JPSJ News Comments 13, 08 (2016).

重い電子系の人工超格子で量子臨界性の人工制御に成功  ページのTopへ

 一般的に、長距離秩序は低次元化により破壊されることが知られています。レアアースなどを含む「重い電子系」と呼ばれる化合物は、非常に強い電子相関と磁性や超伝導などの相転移現象が密接に関係しており、様々な興味深い現象を発現します。しかしながら、現実の物質は全て3次元性をもつものでした。今回、重い電子系反強磁性体の人工超格子構造を作製することで、反強磁性の次元性による制御に成功しました。反強磁性を担うセリウム層の層数を減少させることにより2次元性を制御することで、絶対零度で反強磁性から非秩序相へと転移する点、いわゆる量子臨界点が存在することを明らかにしました。さらに、磁場をかけることでも量子臨界点が現れ、その異方性がバルク物質から類推されるものから逆転していることを見出しました。これは、界面における局所的な空間反転対称性のやぶれとスピン軌道相互作用に伴うバンド分裂、いわゆるラシュバ分裂が量子臨界点の磁場に対する応答を決定していることを示唆しています。この結果は、人工超格子による次元性制御や界面設計によって量子臨界性が人工制御できることを示唆しており、バルクでは実現し得ない新しい電子状態・磁性状態の創出に向けて重要な指針を与えるものと考えられます。(Posted by Y.K.)

Ishii_PRL2016

"Tuning the Magnetic Quantum Criticality of Artificial Kondo Superlattices CeRhIn5/YbRhIn5"
T. Ishii, R. Toda, Y. Hanaoka, Y. Tokiwa, M. Shimozawa, Y. Kasahara, R. Endo, T. Terashima, A. H. Nevidomskyy, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Physical Review Letters. 116, 206401 (2016); arXiv:1605.00120.

量子スピンアイスにおいて磁気モノポールのバリスティックな伝導を観測  ページのTopへ

 スピンアイスと呼ばれる系においては、磁気励起はこの世界に存在しないはずの磁気モノポールとして取り扱うことが出来ます。このために、その性質は多くの研究者の注目を集めており、特に近年では、量子揺らぎがスピンアイス系の性質にどのような影響を与えるのか、という問題に注目が集まっています。我々は、量子揺らぎの強いスピンアイスYb2Ti2O7の熱伝導率を極低温において測定することで、磁気モノポールによる素励起が約1 umという非常に長い平均自由行程をもって伝導をすることを明らかにしました。これは、古典スピン系に比べて、この系では量子揺らぎの効果によって磁気モノポールが分散を持ったエネルギー構造と小さなエネルギーギャップを形成し、さらにコヒーレントな伝導を示していることを意味しています。今回の研究成果は、一次元および二次元スピン液体における低エネルギー素励起のバリスティックな伝導に加えて、三次元スピン液体である量子スピンアイスにおいては、磁気モノポールという新奇な素励起がバリスティック伝導を示すという特異性を明らかにした重要なものです。(Posted by Y.T.)

Tokiwa2016

"Possible observation of highly itinerant quantum magnetic monopoles in the frustrated pyrochlore Yb2Ti2O7"
Y. Tokiwa, T. Yamashita, M. Udagawa, S. Kittaka, T Sakakibara, D. Terazawa, Y. Shimoyama, T. Terashima, Y. Yasui, T. Shibauchi and Y. Matsuda
Nature Commun. 7, 10807 (2016); arXiv:1504.02199.

時間反転対称性の破れた超伝導状態が明らかに  ページのTopへ

 2つの超伝導体を接合させた場合、各々の超伝導波動関数が他方へとしみだすような超伝導体の近接効果が起きます。とくに銅酸化物高温超伝導体や鉄系超伝導体などの非BCS型の超伝導体接合では、その近接効果によって超伝導波動関数の位相に関係した興味深い現象が起きると期待されます。しかしながら非BCS型の超伝導体では、超伝導波動関数の十分なしみ出しが実現する理想的接合を人工的に作製することは非常に難しく、これまでほとんど例がありませんでした。今回私たちは理化学研究所との共同研究により、走査型トンネル顕微鏡及び走査型トンネル分光法を用いて、原子レベルよりも高い分解能でもって鉄系超伝導体FeSeでの双晶境界周りでの超伝導ギャップの空間変化を調べました。この物質では低温で斜方晶への相転移を示すことに伴い双晶境界が形成され、結晶軸がπ/2回転した特異な接合が実現していると考えられます。その結果、双晶境界近傍のトンネルスペクトルには通常の近接効果から期待されるゼロエネルギーの束縛状態が現れず、超伝導の秩序パラメーターが虚数成分を持つような時間反転対称性の破れた超伝導状態によってのみ説明できることが明らかとなりました。(Posted by T.W.)

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"Evidence for Time-Reversal Symmetry Breaking of the Superconducting State near Twin-Boundary Interfaces in FeSe Revealed by Scanning Tunneling Spectroscopy"
T. Watashige, Y. Tsutsumi, T. Hanaguri, Y. Kohsaka, S. Kasahara, A. Furusaki, M. Sigrist, C. Meingast, T. Wolf, H. v. Löhneysen, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Phys. Rev. X 5, 031022 (2015); arXiv:1504.02258.

超伝導ゆらぎによる巨大熱磁気効果の発見  ページのTopへ

 超伝導状態は二つの電子が低温でペア(クーパー対)を組むことにより実現します。一方、超伝導転移温度より少し高温でも、熱ゆらぎの効果により電子のペアは形成されることができ、泡のように生成・消滅を繰り返す「超伝導ゆらぎ」が現れます。超伝導ゆらぎは、さまざまな物理量に影響を与え、特に、磁場中の熱電変換効果の一種である熱磁気効果(ネルンスト効果)は、超伝導ゆらぎの性質を調べる上で重要な物理量として知られています。通常の超伝導体では、この熱磁気効果の大きさはあまり大きくなく、熱電変換材料としてはあまり注目されていませんでした。 今回私達は、ウラン化合物超伝導体URu2Si2の超純良試料を用いて、超伝導ゆらぎに起因した熱磁気効果を精密に測定しました。その結果、熱磁気効果における超伝導ゆらぎの効果が、試料の純良性が増すほど顕著になることを見出しました。これは通常の超伝導体において観測される実験結果と定性的に異なる振る舞いです。さらに熱磁気効果の大きさは、従来の超伝導ゆらぎの理論により予想される値の100万倍に達することがわかりました。URu2Si2の超伝導では、クーパー対を形成する二つの電子が互いの周りを右回り、または左回りのどちらか一方向に回転している新奇な「カイラルd波対称性」を持つことが考えられています。このようなカイラル超伝導では、超伝導の泡の表面を流れるペア電子によって、伝導電子が散乱されることが理論的に考えられ(図)、今回観測された巨大な熱磁気効果は、この散乱過程に基づいた新しい理論によって定量的に説明されます。 (Posted by S.K.)

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"Colossal thermomagnetic response in the exotic superconductor URu2Si2"
T. Yamashita, Y. Shimoyama, Y. Haga, T. D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Sumiyoshi, S. Fujimoto, A. Levchenko, T. Shibauchi and Y. Matsuda
Nature Physics 11, 17-20 (2015); arXiv:1411.1233.

BCS-BECクロスオーバー領域にある特異な超伝導状態が明らかに  ページのTopへ

 弱い引力相互作用により媒介されたフェルミ粒子対が凝縮するBardeen-Cooper- Schrieffer (BCS)状態と、ボース粒子の凝縮であるBose-Einstein凝縮(BEC)は、対極の量子凝縮にあります。両者は対形成の相互作用と粒子の運動エネルギーに応じて連続的に移行し、このクロスオーバー領域では非自明な量子凝縮状態が実現されることが期待されています。このような研究はレーザー冷却された原子系において発展してきましたが、物質中の電子系が示す超伝導では相互作用の自由で連続な制御は困難であり、クロスオーバー領域での超伝導が実在するのか、またそれがどのような状態を示すのかなどは詳しく分かっていませんでした。 今回私達は、鉄系超伝導体の一つFeSeが、有効フェルミエネルギーが僅か数meVという超シャロウバンド物質であり、更に、有効フェルミエネルギーと超伝導ギャップが同程度であるBCS-BECクロスオーバー領域での超伝導が実現していることを見出すことに成功しました。更に、このような超伝導状態に磁場を印加することで、ゼーマンエネルギーと超伝導ギャップ、電子系の有効フェルミエネルギーの3つのエネルギーが拮抗し、超伝導状態において非自明な新しい状態が実現することを明らかにしました。今回発見されたBCS-BECクロスオーバー領域での超伝導は、これまでの物質にない量子凝縮状態と考えられ、この状態を詳細に調べることにより、新しい概念が得られることが期待されます。 (Posted by S.K.)

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11月4日発行の日刊工業新聞(13面)、11月21日発行の科学新聞(1面)に掲載されました。

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"Field-induced superconducting phase of FeSe in the BCS-BEC cross-over"
Shigeru Kasahara, Tatsuya Watashige, Tetsuo Hanaguri, Yuhki Kohsaka, Takuya Yamashita, Yusuke Shimoyama, Yuta Mizukami, Ryota Endo, Hiroaki Ikeda Kazushi Aoyama, Taichi Terashima, Shinya Uji, Thomas Wolf, Hilbert von Löhneysen, Takasada Shibauchi, and Yuji Matsuda
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 111, 16309-16313 (2014); arXiv:1411.1232.


重い電子系化合物URu2Si2の「隠れた秩序相」で対称性の破れを直接観測  ページのTopへ

 重い電子系化合物URu2Si2は17.5 Kで相転移を起こすことがオランダ、ドイツ、アメリカの三つの究グループにより1985年にほぼ独立に発見されています。この相転移温度以下ではURu2Si2は「隠れた秩序」と呼ばる新しい電子状態を示しますが、その相転移の正体は物質物理学の30年来の謎とされています。 今回私たちは大型放射光施設SPring-8 における超高分解能の結晶構造解析により、ウラン化合物 URu2Si2の「隠れた秩序」において結晶構造にわずかな歪みが生じていることを観測しました。 本研究グループでは、隠れた秩序相での電子状態が正方晶から期待される面内回転対称性が破れた「ネマティック秩序」であること熱力学量である磁気トルクや、電子構造を直接的に調べるサイクロトロン共鳴の測定を通じて見い出してきましたが、今回、格子系の僅かな対称性の破れが観測されたことは、「隠れた秩序」が面内回転対称性の破れた電子状態となっている決定打であると考えられます。 (Posted by S.K.)

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6月20日発行の日刊工業新聞、6月24日発行の財経新聞に掲載されました。

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"Direct observation of lattice symmetry breaking at the hidden-order transition in URu2Si2"
S. Tonegawa, S. Kasahara, T. Fukuda, K. Sugimoto, N. Yasuda, Y. Tsuruhara, D.Watanabe, Y. Mizukami, Y. Haga, T.D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Ikeda, Y. Matsuda and T. Shibauchi
Nature Commun. 5, 4188 (2014); arXiv:1406.5040.


量子ゆらぎにより超伝導電子が特定の方向でのみ重くなることを明らかに  ページのTopへ

磁性を示す物質の化学的組成を変化させるなどして磁性を消失させると、従来の超伝導とは異なる発現機構を持つ「非従来型超伝導」が出現する場合があります(左図)。磁性が消失すると、絶対零度においてハイゼンベルグの不確定性原理に由来した量子力学的な「ゆらぎ」が出現します。この量子ゆらぎが超伝導とどのように関連しているのかを解明することが超伝導発現の理解の鍵と考えられてきました。今回我々はこのような量子ゆらぎが強いと考えられている非従来型超伝導体(重い電子系化合物、鉄系超伝導体、有機超伝導体)の磁場侵入長の温度依存性を極低温まで精密測定したところ、超伝導の結合の強さを表す超伝導ギャップの形(右図)のみを考えた場合に期待される温度に比例した振る舞いとは異なる、温度の3/2乗の依存性を普遍的に示すことを明らかにしました。この結果は超伝導ギャップが小さくなる方向で超伝導電子が重くなることを示唆しており、有効質量の増大をもたらす量子ゆらぎが、超伝導電子に特異な形で直接影響を及ぼしていることを初めて明らかにしたものです。 (Posted by T.S.)

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"Anomalous superfluid density in quantum critical superconductors"
K. Hashimoto, Y. Mizukami, R. Katsumata, H. Shishido, M. Yamashita, H. Ikeda, Y. Matsuda, J. A. Schlueter, J. D. Fletcher, A. Carrington, D. Gnida, D. Kaczorowski, and T. Shibauchi
Proc. Natl. Acad. Sci. USA doi:10.1073/pnas.1221976110 (2013).


局所的反転対称性の破れによる重い電子超伝導の異常を観測  ページのTopへ

結晶構造中に空間反転対称性の破れにより電場勾配が生じると、結晶内を運動する電子に働くスピン軌道相互作用のため、波数方向により電子スピンの方向が制限を受け、バンドが分裂します。このような効果は、半導体の2次元表面やヘテロ界面において、「ラシュバ分裂」として知られています。最近我々により世界ではじめて実現した重い電子系化合物の超伝導超格子では、希土類元素のスピン軌道相互作用が大きいため、このような界面で期待されるバンド分裂効果が超伝導にどのような影響を及ぼすかが、重要な問題となります。我々は、超伝導を担うセリウム層の層数を5,4,3と減少させることにより、上部臨界磁場の角度依存性が劇的に変化することを見出しました。これは界面の占める割合が上昇するにつれ、バンド分裂効果により超伝導の磁場による対破壊機構が変更を受けることを示唆しており、重い電子系超伝導状態の物理の理解に重要な結果です。 (Posted by T.S.)

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"Anomalous upper critical field in CeCoIn5/YbCoIn5 superlattices with a Rashba-type heavy fermion interface"
S. K. Goh, Y. Mizukami, H. Shishido, D. Watanabe, S. Yasumoto, M. Shimozawa, M. Yamashita, T. Terashima, Y. Yanase, T. Shibauchi, A. I. Buzdin, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 109, 157006 (2012); arXiv:1207.4889.


モット絶縁体が示す新しい量子スピン液体相の存在を明らかに  ページのTopへ

2次元モット絶縁体の多くは低温で反強磁性秩序を示しますが、三角格子など幾何学的フラストレーションを持つ系では、その反強磁性転移温度が消失し、絶対零度まで磁気秩序を示さない量子スピン液体状態を示す可能性があることが理論的に示されています。このような磁気秩序を示さない系として、有機化合物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2において、極低温熱伝導率および比熱測定により低エネルギー励起の存在が示唆され、その基底状態がどのようになっているのか、大きな注目を集めています。今回、この低エネルギー励起が、スピン励起によるものかどうかを明らかにするために、磁気トルクを用いて単結晶試料における極低温帯磁率を測定した結果、スピン励起にギャップはなく、低エネルギー励起が存在すること、また重水素化により低エネルギー励起は消失しないことが明らかとなりました。この結果はエネルギーギャップのないスピン液体状態が、絶対零度でフラストレーションという制御パラメータに対して安定に「相」として存在することを示唆しており、モット絶縁体の新しい量子相の理解へつながる重要な成果であると考えられます。 (Posted by T.S.)

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"Novel Pauli-paramagnetic quantum phase in a Mott insulator"
D. Watanabe, M. Yamashita, S. Tonegawa, Y. Oshima, H. M. Yamamoto, R. Kato, I. Sheikin, K. Behnia, T. Terashima, S. Uji, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Nature Commun. 3, 1090 (2012); arXiv:1210.0407.


重い電子系化合物URu2Si2の「隠れた秩序」相における電子構造を解明  ページのTopへ

重い電子系化合物URu2Si2では17.5 Kで2次相転移を示すことが27年前から知られていますが、これより低温でどのような秩序が形成されているかが大きな謎となっており、「隠れた秩序」相とよばれています。この長年の謎を解く鍵となる電子構造、特にフェルミ面の構造の全貌については、様々な測定手段を用いた多数の実験をもってしても明らかになっていない部分が多く、その解明が急務となっていました。今回我々は、重い電子系物質では初めてとなるサイクロトロン共鳴を観測し、その角度依存性の詳細を調べた結果、主なフェルミ面に対応する有効質量の構造をほぼ完全に明らかにすることに初めて成功しました。その結果、今まで等方的と思われていたホール面に対応する共鳴線が、[110]方向の近くで2つに分裂しており、結晶構造から期待される4回対称性を破った2回対称性を示す電子構造であることを明らかにしました。この結果は、隠れた秩序の対称性を強く制限するため、この秩序を最終決定する上で非常に重要な結果だと考えられます。 (Posted by T.S.)

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"Cyclotron Resonance in the Hidden-Order Phase of URu2Si2"
S. Tonegawa, K. Hashimoto, K. Ikada, Y.-H. Lin, H. Shishido, Y. Haga, T. D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Ikeda, Y. Matsuda, and T. Shibauchi
Phys. Rev. Lett. 109, 036401 (2012); arXiv:1207.3905.


超伝導体が絶対零度で示す新しい臨界現象を発見  ページのTopへ

状態の変化を表す相転移の理解は物理学の中心課題の一つです。相転移の近傍では、均一な状態からのずれ(ゆらぎ)が大きくなりますが、通常これは熱によってゆらぎが引き起こされていると考えることができます。しかしながら、この相転移は熱ゆらぎの存在しない絶対零度でも、圧力、化学組成などの温度ではないパラメーターを変化させることによっても起こすことが出来ます。このような相転移は量子相転移と呼ばれ、不確定性原理に由来する量子ゆらぎによって起こるものであり、このような相転移を起こす点は量子臨界点と呼ばれます。今回、鉄系超伝導体が絶対零度で示す新しい臨界現象を発見しました。鉄イオンを含む高温超伝導物質の元素組成比を化学的に変化させたところ、超伝導電子の重さが、ある組成比に近づくにつれて著しく増強されることを実験的に明らかにしました。この結果は超伝導状態の中に、量子臨界点が存在することを直接的に示すもので、これまでの長年の未解決の問題に答えを与えるものです。さらに、この臨界点直上で超伝導転移温度が最も高く、量子効果によるゆらぎの増大と超伝導転移温度を高める要因が強く関連していることが示唆されます。 (Posted by T.S.)

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読売新聞に関連記事が掲載されました。

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"A sharp peak of the zero-temperature penetration depth at optimal composition in the iron-based superconductor BaFe2(As1-xPx)2"
K. Hashimoto, K. Cho, T. Shibauchi, S. Kasahara, Y. Mizukami, R. Katsumata, Y. Tsuruhara, T. Terashima, H. Ikeda, M. A. Tanatar, H. Kitano, P. Walmsley, A. Carrington, R. Prozorov, and Y. Matsuda
Science 336, 1554-1557 (2012).
* Perspective article: S. Sachdev, Science 336, 1510-1511 (2012).


鉄系高温超伝導体において「電子のネマティック液晶状態」を発見  ページのTopへ

電子間の相互作用が強い強相関電子系物質では、様々な自明でない複雑な電子相が現れることが近年明らかとなってきており、その最も驚くべき相の一つが回転対称性を破って1次元的な方向性を示す「ネマティック」電子相と呼ばれるものです。鉄系高温超伝導体では4回回転対称性を持つ正方晶から2回対称性を持つ斜方晶への構造相転移と、それより少し低い温度で反強磁性秩序が起きることが知られており、これらの転移温度が消失する近傍で超伝導が起こることが知られていました。今回、下図に示すように、通常の実験で正方晶と思われていた超伝導相を覆うような広い範囲で、電子状態が2回対称性を示すことを発見しました。これは電子の軌道が1方向に整列したことによるものであると考えられ、このような状態が高温超伝導の引き金となっている可能性を示すものです。(Posted by T.S.)

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京都新聞、日刊工業新聞、日経産業新聞、科学新聞、読売新聞に関連記事が掲載されました。

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"Electronic nematicity above the structural and superconducting transition in BaFe2(As1-xPx)2"
S. Kasahara, H. J. Shi, K. Hashimoto, S. Tonegawa, Y. Mizukami, T. Shibauchi, K. Sugimoto, T. Fukuda, T. Terashima, A. H. Nevidomskyy, and Y. Matsuda
Nature 486, 382-385 (2012); arXiv:1207.1045.


同形超伝導体LiFeAsとLiFePの対照的な超伝導状態を明らかに  ページのTopへ

鉄系高温超伝導体では、マルチバンドの電子構造と非従来型の超伝導機構があいまって、その超伝導状態が物質群によって多様性を示すことが明らかになってきています。この異常な振る舞いを理解するには、物質のどのパラメータが鍵となって超伝導状態が異なっているのかを明らかにする必要があります。我々は同形の超伝導体LiFeAsとLiFePの純良単結晶試料の磁場侵入長測定から、AsとPの違いによりエネルギーギャップ構造が異なることを明らかにしました。量子振動の実験からLiFePではホールバンドの一部で電子相関が弱くなっていることを見出しました。さらに、様々な物質群の比較から、鉄系超伝導体では、結晶構造における鉄平面とニクトゲン原子(AsやP)との距離が短くなるとギャップにゼロ点が生まれることを実験的に明らかにしました。これらの情報は、鉄系超伝導発現機構解明に向け非常に重要な結果だと考えられます。(posted by T.S.)

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  1. "Nodal versus Nodeless Behaviors of the Order Parameters of LiFeP and LiFeAs Superconductors from Magnetic Penetration-Depth Measurements"
    K. Hashimoto, S. Kasahara, R. Katsumata, Y. Mizukami, M. Yamashita, H. Ikeda, T. Terashima, A. Carrington, Y. Matsuda, and T. Shibauchi
    Phys. Rev. Lett. 108, 047003 (2012); arXiv:1107.4505.
  2. "de Haas–van Alphen Study of the Fermi Surfaces of Superconducting LiFeP and LiFeAs"
    C. Putzke, A. I. Coldea, I. Guillamón, D. Vignolles, A. McCollam, D. LeBoeuf, M. D. Watson, I. I. Mazin, S. Kasahara, T. Terashima, T. Shibauchi, Y. Matsuda, and A. Carrington
    Phys. Rev. Lett. 108, 047002 (2012); arXiv:1107.4375.
  3. "Contrasts in electron correlations and inelastic scattering between LiFeP and LiFeAs revealed by charge transport"
    S. Kasahara, K. Hashimoto, H. Ikeda, T. Terashima, Y. Matsuda, and T. Shibauchi
    Phys. Rev. B 85, 060503(R) (2012); arXiv:1112.5597.

重い電子の人工超格子で「超強結合」超伝導を実現  ページのTopへ

電子同士の相互作用が強い「強相関電子系」を低次元化すると、さらに電子相関の効果が顕著になり、様々な興味深い現象が発現します。高温超伝導はその代表例だと考えられます。電子相関が最も強い金属状態はレアアース化合物などf軌道の電子を持つ系で実現され、相互作用により電子の有効質量が増大するため、「重い電子系」物質とよばれています。このような重い電子系の超伝導は知られていましたが、いずれも電子構造が3次元性を持つものでした。今回、下図に示すように、セリウム化合物の今回人工超格子構造を作製することで、2次元性を持つ超伝導状態を世界ではじめて実現しました。この超伝導は、これまで前例のないほど強結合状態にあることが明らかとなり、強相関2次元超伝導の理解に役立つことが期待されます。(Posted by T.S.)

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京都新聞、中日新聞、読売新聞に関連記事が掲載されました。

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"Extremely strong-coupling superconductivity in artificial two-dimensional Kondo lattices"
Y. Mizukami, H. Shishido, T. Shibauchi, M. Shimozawa, S. Yasumoto, D. Watanabe, M. Yamashita, H. Ikeda, T. Terashima, H. Kontani, and Y. Matsuda
Nature Physics 7, 849-853 (2011); arXiv:1109.2382.
* News & Views article: J. D. Thompson Nature Physics 7, 838-839 (2011).

鉄系超伝導体BaFe2(As,P)2のギャップ構造を決定  ページのTopへ

鉄系高温超伝導体の大きな特徴はマルチバンドの電子構造を持ち、左下図のようにホールバンドと電子バンドが離れた筒状のフェルミ面を形成している点です。鉄系高温超伝導発現機構を解明する上で、超伝導秩序パラメータ(超伝導ギャップ)の対称性を決定することは最重要課題と考えられていますが、このようなマルチバンドの電子構造を考慮した、詳細な議論が必要となります。我々は、低エネルギー励起に敏感な熱伝導率の磁場角度依存性の実験結果から、比較的高い30 Kの転移温度を持つBaFe2(As,P)2では、電子バンドのフェルミ面にのみ右下図のようなループ状のゼロ点(ノード)を持つ超伝導ギャップ構造を持っていることを初めて明らかにしました。この構造は拡張s波という対称性を持つ非従来型超伝導であることを決定づけるものです。(posted by T.S.)

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"Nodal Gap Structure of Superconducting BaFe2(As1-xPx)2 from Angle-Resolved Thermal Conductivity in a Magnetic Field"
M. Yamashita, Y. Senshu, T. Shibauchi, S. Kasaharsa, K. Hashimoto, D. Watanabe, H. Ikeda, T. Terashima, I. Vekhter, A. B. Vorontsov, and Y. Matsuda
Phys. Rev. B 84, 060507(R) (2011); arXiv:1103.0885.


ウラン化合物における四半世紀の謎を解明  ページのTopへ

ウラン化合物URu2Si2は、電子間の相互作用が強く、強相関電子系物質として知られています。特に、17.5 Kで二次相転移を示すことが1985年に発見されましたが、その後の膨大な研究にもかかわらず、どのような状態になっているかが未解明の状態が続いており、「隠れた秩序」状態とよばれて大きな注目を浴びています。相転移による状態の変化は一般に対称性の破れを伴いますが、「どの対称性が破れた状態であるか」という最も根本的な問題が未解決のまま、物性物理学における四半世紀にわたる大きな謎でした。今回、原子力開発機構の芳賀グループにより育成された純良微小単結晶の磁気トルク精密測定から、結晶構造の4回回転対称性を破った「ネマティック」電子状態とよべる状態であることを初めてつきとめました。これは今まで数多く提唱されている理論の前提を覆すもので、物質の新しい状態の理解へつながると期待されます。(Posted by T.S.)

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朝日新聞、京都新聞、中日新聞、日刊工業新聞、日経産業新聞に関連記事が掲載されました。KBSニュース、日経サイエンス4月号で紹介されました。

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(URu2Si2の結晶構造の概略図に重ねた、ウラン原子面での電子状態のイメージ図。相転移温度以下で方向性を持った状態となる。)

"Rotational Symmetry Breaking in the Hidden-Order Phase of URu2Si2"
R. Okazaki, T. Shibauchi, H. J. Shi, Y. Haga, T. D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Ikeda, and Y. Matsuda
Science 331, 439-442 (2011).

量子スピン液体におけるギャップレス励起の発見  ページのTopへ

通常の物質は絶対零度においては固体となって結晶を組みますが、量子揺らぎの効果が強いと結晶化できずに「量子液体」と呼ばれる状態にとどまることが液体ヘリウムなどの研究で知られていました。電子の持つスピンも二次元三角格子などの幾何学的フラストレーションのある環境に置かれると絶対零度まで凍結しない「量子スピン液体」になる可能性があり、実際最近になってそうした量子スピン液体の候補物質が見つかってきましたが、その詳しい性質は謎でした。 今回我々は量子スピン液体状態をもつ有機物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の熱伝導率を極低温まで測ったところ、この物質は絶縁体であるにもかかわらず、金属中の電子のような熱伝導性を示すことが分かりました。これは量子スピン液体におけるスピンがギャップレスの励起をもっていることを示しています。この結果は量子スピン液体が、ただスピンがバラバラなだけの常磁性体とは異なり、非常に長い相関をもつ量子状態にあることを世界で初めて実験的に示したものです。(Posted by M.Y.)

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朝日新聞、京都新聞、日刊工業新聞、日経産業新聞に関連記事が掲載されました。

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(左図:三角格子におけるスピンのフラストレーション。右図:量子スピン液体の想像図。)

"Highly Mobile Gapless Excitations in a Two-Dimensional Candidate Quantum Spin Liquid"
Minoru Yamashita, Norihito Nakata, Yoshinori Senshu, Masaki Nagata, Hiroshi M. Yamamoto, Reizo Kato, Takasada Shibauchi, Yuji Matsuda
Science 328, 1246-1248 (2010).

鉄系高温超伝導体のギャップ構造の多様性を明らかに  ページのTopへ

超伝導体のエネルギーギャップ構造は、その超伝導の発現機構と密接な関わりがあり、今までの超伝導体では同じ系の超伝導体は同様なギャップ構造を持っていました。たとえば銅酸化物高温超伝導体では、様々な転移温度を持つ異なった物質群で、同じようなゼロ点を持つギャップ構造を共通に持つことがわかっています。しかしながら、最近発見されたBaFe22As2を元にした鉄系高温超伝導体では、FeをKに置換した物質とAsをPで置換した物質で、似通った転移温度を示すにもかかわらず、そのギャップ構造に大きな違いがあることが明らかとなりました。我々はP置換の純良単結晶育成に成功し、その低温精密物性測定からこの違いを高い確度で示しました。これはこの系の特殊な電子構造と、非従来型の超伝導機構があいまって現れた前例のない性質であると考えられます。(posted by TS)

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  1. "Line Nodes in the Energy Gap of Superconducting BaFe2(As1-xPx)2 Single Crystals as Seen via Penetration Depth and Thermal Conductivity"
    K. Hashimoto, M. Yamashita, S. Kasahara, Y. Senshu, N. Nakata, S. Tonegawa, K. Ikada, A. Serafin, A. Carrington, T. Terashima, H. Ikeda, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
    Phys. Rev. B 81, 220501(R) (2010); arXiv:0907.4399.
    * Editors' suggestion
  2. "Evolution from Non-Fermi- to Fermi-Liquid Transport via Isovalent Doping in BaFe2(As1-xPx)2 Superconductors"
    S. Kasahara, T. Shibauchi, K. Hashimoto, K. Ikada, S. Tonegawa, H. Ikeda, H. Takeya, K. Hirata, T. Terashima, and Y. Matsuda
    Phys. Rev. B 81, 184519 (2010); arXiv:0905.4427.

重い電子系の人工的な2次元化に成功  ページのTopへ

現代の固体物理学において、高温超伝導や量子ホール効果など興味深い性質を示す「2次元電子系」と、電子同士の相互作用が強い「強相関電子系」という2つの重要な分野があります。現在までに最も強い電子相関を示す「重い電子系」化合物の電子構造は全て3次元的でした。2次元の重い電子系を作り出すことができれば、これらの2つの分野を融合した未知領域を開拓でき、さらなる相互作用の増大やゆらぎの発達により新奇な電子状態が実現できることが期待できます。我々は低温物質科学研究センター寺嶋研と共同で分子線エピタキシーという方法を用いて、重い電子系として知られているCe化合物の人工超格子構造を世界で初めて作ることに成功しました。この技術により重い電子状態を人工的にデザインすることが可能になり、今後新奇超伝導状態の創出や強相関エレクトロニクスへの応用が期待されます。(posted by TS)

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京都新聞、産経新聞、中日新聞、日刊工業新聞、日本経済新聞、毎日新聞、読売新聞に関連記事が掲載されました。KBSニュース、共同通信ニュース、NPG Asia Materialsで取り上げられました。

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"Tuning the Dimensionality of the Heavy Fermion Compound CeIn3"
H. Shishido, T. Shibauchi, K. Yasu, T. Kato, H. Kontani, T. Terashima, and Y. Matsuda
Science 327, 980-983 (2010). See also Perspective article by P. Coleman Science 327, 969-970 (2010).


鉄系高温超伝導体のフェルミ面に多体効果が明らかに  ページのTopへ

鉄系高温超伝導体では、反強磁性秩序の近傍で超伝導が出現することから、反強磁性揺らぎなどの電子の多体相関が重要であるのではないかと考えられてきました。その超伝導発現機構の理解を巡って重要となるのが、フェルミ面の決定です。我々は高温超伝導を示す領域としては初めてとなる高磁場量子振動の観測に成功し、フェルミ面の大きさや有効質量を決定しました。その結果、反強磁性相に近づくにつれて超伝導転移温度が増大するにつれ、バンド計算の結果から外れていき、有効質量が増大していくことが明らかとなりました。これは、超伝導の起源に多体効果が重要であることを直接的に示した重要な結果であると考えられます。(posted by TS)

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"Evolution of the Fermi surface of BaFe2(As1-xPx)2 on entering the superconducting dome"
H. Shishido, A. F. Bangura, A. I. Coldea, S. Tonegawa, K. Hashimoto, S. Kasahara, P. M. C. Rourke, H. Ikeda, T. Terashima, R. Settai, Y. Onuki, D. Vignolles, C. Proust, B. Vignolle, A. McCollam, Y. Matsuda, T. Shibauchi, and A. Carrington
Phys. Rev. Lett. 104, 057008 (2010); arXiv:0910.3634.


新鉄系高温超伝導体の超伝導電子密度の異常な不純物効果  ページのTopへ

従来のBCS超伝導体では非磁性不純物を導入しても超伝導への影響は少なく、転移温度やエネルギーギャップ、また超伝導電子密度の温度依存性はほとんど変化しないことが「Andersonの定理」として知られています。これに対し、秩序変数の符号反転を伴う非従来型の異方的超伝導では不純物導入により低エネルギー励起が大きく変化し、超伝導電子密度に大きく影響することが期待されます。今回、新型の鉄系高温超伝導体において、様々な不純物散乱を持つ単結晶の超伝導電子密度の温度依存性を調べたところ、散乱率の大きさに大きく依存することが明らかとなりました。この結果はこの超伝導体が新しいタイプの非従来型超伝導体であることを示唆しています。(posted by TS)

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"Microwave Surface-Impedance Measurements of the Magnetic Penetration Depth in Single Crystal Ba1-xKxFe2As2 Superconductors: Evidence for a Disorder-Dependent Superfluid Density"
K. Hashimoto, T. Shibauchi, S. Kasahara, K. Ikada, S. Tonegawa, T. Kato, R. Okazaki, C. J. van der Beek, M. Konczykowski, H. Takeya, K. Hirata, T. Terashima, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 102, 207001 (2009); arXiv:0810.3506.


重い電子系URu2Si2の「隠れた秩序」相内に新たな相転移を発見  ページのTopへ

重い電子系化合物URu2Si2では17.5 Kで比熱が大きな跳びを示し、その相転移の起源をめぐって様々な研究が行なわれています。特に、他の重い電子系で観測されているような反強磁性や強磁性など磁性は観測されておらず、その秩序変数の実体は20年以上も未知となっています。最近育成された純良単結晶を用いてこの「隠れた秩序」相内で高磁場輸送特性を調べたところ、新しい相転移を示唆する22テスラ近辺でホール抵抗の明瞭な跳びと、より高磁場で新しいフェルミ面の出現に起因した量子振動現象が観測されました。これは、「隠れた秩序」がバンドごとに大きさの異なる秩序変数を持ち、磁場により秩序が多段階で壊れることを示唆しており、隠れた秩序の解明に大きなヒントを与える結果であると考えられます。 (posted by TS)

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"Possible Phase Transition Deep Inside the Hidden Order Phase of Ultraclean URu2Si2"
H. Shishido, K. Hashimoto, T. Shibauchi, T. Sasaki, H. Oizumi, N. Kobayashi, T. Takamasu, K. Takehana, Y. Imanaka, T. D. Matsuda, Y. Haga, Y. Onuki, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 102, 156403 (2009); arXiv:0903.3821.


鉄砒素系超伝導体の下部臨界磁場を新しい手法で評価  ページのTopへ

第2種超伝導体に磁場をかけていくとマイスナー状態では磁場は排除され、下部臨界磁場に達したとき渦糸の侵入が始まります。これまでこの下部臨界磁場の評価には主にバルク磁化測定が用いられてきましたが、そのような手法では渦糸のピン止めに起因する試料全体の不均一な磁化を平均して測定してしまうという問題点があり、下部臨界磁場の決定は非常に困難でした。そこで今回、微小なホール素子をアレイ状に並べた素子を使用し、試料端からの磁束の侵入を精密に測定することによって鉄砒素系超伝導体PrFeAsO1-yの下部臨界磁場の決定に成功しました。またさらにその異方性を測定したところ、この系では2次元的なフェルミ面が超伝導発現により関わっていることを示唆する結果が得られました。 (posted by RO)

OkazakiPRB2008_FeAs.png

"Lower critical fields of superconducting PrFeAsO1-y single crystals"
R. Okazaki, M. Konczykowski, C. J. van der Beek, T. Kato, K. Hashimoto, M. Shimozawa, H. Shishido, M. Yamashita, M. Ishikado, H. Kito, A. Iyo, H. Eisaki, S. Shamoto, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Phys. Rev. B 79, 064520 (2009); arXiv:0811.3669.


新鉄系高温超伝導体のギャップにゼロ点がないことを解明  ページのTopへ

2008年に東工大グループにより鉄を含む新高温超伝導体が発見されました。これは、サイエンス誌の2008年10大ニュースの一つにも選ばれ、現在の物理学の大きなトピックスとなっています。基礎物理学としての最重要課題は、その超伝導機構を明らかにすることですが、その上で、欠かせないのが超伝導ギャップ構造の同定です。現在までに、多結晶試料を用いた研究では銅酸化物高温超伝導体同様のゼロ点を持つ構造ではないかと示唆されてきました。これに対し、我々は世界で初めて単結晶試料を用いてこの問題を調べ、磁場侵入長の温度依存性が低温で一定値に近づく振る舞いを示すことから、ゼロ点がないギャップ構造であることを突き止めました。これは新しい鉄系超伝導体が銅酸化物とは異なる性質を示すことを意味する重要な結果です。 (posted by TS)

HashimotoPRL2009.jpg

"Microwave Penetration Depth and Quasiparticle Conductivity of PrFeAsO1-y Single Crystals: Evidence for a Full-Gap Superconductor"
K. Hashimoto, T. Shibauchi, T. Kato, K. Ikada, R. Okazaki, H. Shishido, M. Ishikado, H. Kito, A. Iyo, H. Eisaki, S. Shamoto, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 102, 017002 (2009); arXiv:0806.3149.