3回生向けの半期の演習実験です。物質中の電子の量子力学的振る舞いを学ぶことを目的としており、その最も顕著な例として、量子現象がマクロなスケールで現れる超伝導について学びます。特に、超伝導の重要な概念であるゲージ対称性の破れや、エネルギーギャップと準粒子励起、量子力学の顕著な特徴であるトンネルスペクトルについて理解することを行います。これらは先端の非従来型超伝導の研究においても重要な概念であり、この先の卒業研究や大学院での研究において強相関電子系における非従来型超伝導に興味がある学生にも研究の一端に触れる良い窓口になることと思います。
輪講
週2-3時間の輪講形式の演習を通して、
について取りあげ学びます。特にBCS理論は超伝導の標準理論であり、エッセンスをしっかり押さえておきたいものです。
実験
演習の後半では実際に先端の実験装置や極低温での物性測定を体験します。下記は過去の実習例です。
平成25年度: 錫玉を用いたジョセフソン接合作製とマイクロ波照射によるシャピロステップの観測
平成26年度: 電子ビームを用いた超伝導薄膜接合素子の作製とトンネルスペクトル測定による超伝導エネルギーギャップの直接観測
クリーンルームでの先端実験装置を用いた超伝導接合素子作製を行います。作製した接合素子については、3He冷凍機を用いた絶対温度 300 mKまでの温度域においてトンネルスペクトル測定を行い、Dynes関数によるデータ解析やDynesの原著論文を通じて、超伝導エネルギーギャップが形成される様子を調べます。超伝導ギャップ構造は電子対の形成機構と強く結びついており、非従来型超伝導の研究においても非常に重要な概念です。
これらの実習を通じて凝縮系物理に関する"研究の一端"を体験するとともに、より最先端の研究トピックや実験手法についても織り交ぜていきます。
超伝導という物質科学が示す最もドラスティックな物理現象に関心を持たれた方、是非、当課題演習を選択してみてください。
2015年度 課題演習B3発表について
1. これまでの輪講で学んだ内容をもとにして、イントロダクション (超伝導と準粒子励起)、実験 (薄膜接合素子の作製手法およびトンネルスペクトルの測定)、測定結果、解析・考察、まとめ、のスライド発表をしてください。必ずしもこれと全く同じ構成にする必要はありません。また、各自の分担については任せます。
2. 各自の課題とする物質群について調べ、スライド発表(5-10枚)をしてください。特に、その物質群の構造や電子状態がどのような特徴をもっているのかのイントロダクションと、超伝導がどのように考えられているのかについてを実験ベースで調べて来てください。超伝導の起源、即ち電子対形成をもたらす相互作用の起源を知る大きな手掛かりは、準粒子励起を調べることにあります。これには輪講で学んだスペクトロスコピックな実験 (トンネルスペクトル/分光) のほかにも、磁場侵入長、熱伝導率、比熱などが挙げられます。これらの実験をもとに超伝導ギャップ (準粒子の状態密度/準粒子励起) がどのようになっているかを調べてみて下さい。参考図書や文献についてアドバイスが必要な場合、随時質問してもらって構いません。
他の聴衆に分かりやすい発表に留意しましょう。特に2 では、次第に教科書にはない研究の世界の話に入っていきます。既に分かっていることもあれば、まだまだ分かっていないこともあります。輪講で学んだ従来型の超伝導と比較して、何が面白くて何が謎なのかを考えてみると良いでしょう。
後期発表: 1月18日 13:30-
レポート提出について
上記の発表を行った内容のうち、1についてをレポートにまとめ、電子ファイルで提出して下さい。余裕がある場合には 2についても記述していただいても結構ですが、あくまで主題は1の実験であり、こちらをできる限り充実させることに努めてください。提出にはLaTeXによるレポート作成を推奨します。(ただし必須ではありません。)
課題演習は、皆さんが近い将来、卒業研究 (課題研究) や大学院での研究を行うための準備をする場です。これからは、ただ与えられた課題をこなして出てきたデータをまとめるというレポートではなく
・その実験の何が重要なのか
・何を理解したかったのか
・何が面白い点なのか
といったことを強く意識し、これらを論文執筆や発表を通じて他者に伝えることも重要になってきます。イントロダクションや議論・考察ではこれらの点に留意し、レポート執筆に臨んでみて下さい。
後期レポート(暫定スケジュール)
仮提出: 2月5日 17:00 持参 (その場で修正点などの指示をします)
本締切: 2月10日13:00 厳守 電子ファイルをe-mailにて提出