当研究室で得られた研究成果の一部をご紹介します。


2011年1月 ウラン化合物における四半世紀の謎を解明

2010年6月 量子スピン液体におけるギャップレス励起の発見

2010年6月 鉄系高温超伝導体のギャップ構造の多様性を明らかに

2010年2月 重い電子系の人工的な2次元化に成功

2010年2月 鉄系高温超伝導体のフェルミ面に多体効果が明らかに

2009年5月 新鉄系高温超伝導体の超伝導電子密度の異常な不純物効果

2009年4月 重い電子系URu2Si2の「隠れた秩序」相内に新たな相転移を発見

2009年3月 鉄砒素系超伝導体の下部臨界磁場を新しい手法で評価

2009年1月 新鉄系高温超伝導体のギャップにゼロ点がないことを解明


2008年までのhighlights→research highlights -2008


ウラン化合物における四半世紀の謎を解明 ページのTopへ

ウラン化合物URu2Si2は、電子間の相互作用が強く、強相関電子系物質として知られています。特に、17.5 Kで二次相転移を示すことが1985年に発見されましたが、その後の膨大な研究にもかかわらず、どのような状態になっているかが未解明の状態が続いており、「隠れた秩序」状態とよばれて大きな注目を浴びています。相転移による状態の変化は一般に対称性の破れを伴いますが、「どの対称性が破れた状態であるか」という最も根本的な問題が未解決のまま、物性物理学における四半世紀にわたる大きな謎でした。今回、原子力開発機構の芳賀グループにより育成された純良微小単結晶の磁気トルク精密測定から、結晶構造の4回回転対称性を破った「ネマティック」電子状態とよべる状態であることを初めてつきとめました。これは今まで数多く提唱されている理論の前提を覆すもので、物質の新しい状態の理解へつながると期待されます。(Posted by T.S.)

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(URu2Si2の結晶構造の概略図に重ねた、ウラン原子面での電子状態のイメージ図。相転移温度以下で方向性を持った状態となる。)

"Rotational Symmetry Breaking in the Hidden-Order Phase of URu2Si2"
R. Okazaki, T. Shibauchi, H. J. Shi, Y. Haga, T. D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Ikeda, and Y. Matsuda
Science 331, 439-442 (2011).

量子スピン液体におけるギャップレス励起の発見 ページのTopへ

通常の物質は絶対零度においては固体となって結晶を組みますが、量子揺らぎの効果が強いと結晶化できずに「量子液体」と呼ばれる状態にとどまることが液体ヘリウムなどの研究で知られていました。電子の持つスピンも二次元三角格子などの幾何学的フラストレーションのある環境に置かれると絶対零度まで凍結しない「量子スピン液体」になる可能性があり、実際最近になってそうした量子スピン液体の候補物質が見つかってきましたが、その詳しい性質は謎でした。 今回我々は量子スピン液体状態をもつ有機物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の熱伝導率を極低温まで測ったところ、この物質は絶縁体であるにもかかわらず、金属中の電子のような熱伝導性を示すことが分かりました。これは量子スピン液体におけるスピンがギャップレスの励起をもっていることを示しています。この結果は量子スピン液体が、ただスピンがバラバラなだけの常磁性体とは異なり、非常に長い相関をもつ量子状態にあることを世界で初めて実験的に示したものです。(Posted by M.Y.)

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(左図:三角格子におけるスピンのフラストレーション。右図:量子スピン液体の想像図。)

"Highly Mobile Gapless Excitations in a Two-Dimensional Candidate Quantum Spin Liquid"
Minoru Yamashita, Norihito Nakata, Yoshinori Senshu, Masaki Nagata, Hiroshi M. Yamamoto, Reizo Kato, Takasada Shibauchi, Yuji Matsuda
Science 328, 1246-1248 (2010).

鉄系高温超伝導体のギャップ構造の多様性を明らかに ページのTopへ

超伝導体のエネルギーギャップ構造は、その超伝導の発現機構と密接な関わりがあり、今までの超伝導体では同じ系の超伝導体は同様なギャップ構造を持っていました。たとえば銅酸化物高温超伝導体では、様々な転移温度を持つ異なった物質群で、同じようなゼロ点を持つギャップ構造を共通に持つことがわかっています。しかしながら、最近発見されたBaFe22As2を元にした鉄系高温超伝導体では、FeをKに置換した物質とAsをPで置換した物質で、似通った転移温度を示すにもかかわらず、そのギャップ構造に大きな違いがあることが明らかとなりました。我々はP置換の純良単結晶育成に成功し、その低温精密物性測定からこの違いを高い確度で示しました。これはこの系の特殊な電子構造と、非従来型の超伝導機構があいまって現れた前例のない性質であると考えられます。(posted by TS)

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  1. "Line Nodes in the Energy Gap of Superconducting BaFe2(As1-xPx)2 Single Crystals as Seen via Penetration Depth and Thermal Conductivity"
    K. Hashimoto, M. Yamashita, S. Kasahara, Y. Senshu, N. Nakata, S. Tonegawa, K. Ikada, A. Serafin, A. Carrington, T. Terashima, H. Ikeda, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
    Phys. Rev. B 81, 220501(R) (2010); arXiv:0907.4399.
    * Editors' suggestion
  2. "Evolution from Non-Fermi- to Fermi-Liquid Transport via Isovalent Doping in BaFe2(As1-xPx)2 Superconductors"
    S. Kasahara, T. Shibauchi, K. Hashimoto, K. Ikada, S. Tonegawa, H. Ikeda, H. Takeya, K. Hirata, T. Terashima, and Y. Matsuda
    Phys. Rev. B 81, 184519 (2010); arXiv:0905.4427.

重い電子系の人工的な2次元化に成功 ページのTopへ

現代の固体物理学において、高温超伝導や量子ホール効果など興味深い性質を示す「2次元電子系」と、電子同士の相互作用が強い「強相関電子系」という2つの重要な分野があります。現在までに最も強い電子相関を示す「重い電子系」化合物の電子構造は全て3次元的でした。2次元の重い電子系を作り出すことができれば、これらの2つの分野を融合した未知領域を開拓でき、さらなる相互作用の増大やゆらぎの発達により新奇な電子状態が実現できることが期待できます。我々は低温物質科学研究センター寺嶋研と共同で分子線エピタキシーという方法を用いて、重い電子系として知られているCe化合物の人工超格子構造を世界で初めて作ることに成功しました。この技術により重い電子状態を人工的にデザインすることが可能になり、今後新奇超伝導状態の創出や強相関エレクトロニクスへの応用が期待されます。(posted by TS)

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"Tuning the Dimensionality of the Heavy Fermion Compound CeIn3"
H. Shishido, T. Shibauchi, K. Yasu, T. Kato, H. Kontani, T. Terashima, and Y. Matsuda
Science 327, 980-983 (2010). See also Perspective article by P. Coleman Science 327, 969-970 (2010).


鉄系高温超伝導体のフェルミ面に多体効果が明らかに ページのTopへ

鉄系高温超伝導体では、反強磁性秩序の近傍で超伝導が出現することから、反強磁性揺らぎなどの電子の多体相関が重要であるのではないかと考えられてきました。その超伝導発現機構の理解を巡って重要となるのが、フェルミ面の決定です。我々は高温超伝導を示す領域としては初めてとなる高磁場量子振動の観測に成功し、フェルミ面の大きさや有効質量を決定しました。その結果、反強磁性相に近づくにつれて超伝導転移温度が増大するにつれ、バンド計算の結果から外れていき、有効質量が増大していくことが明らかとなりました。これは、超伝導の起源に多体効果が重要であることを直接的に示した重要な結果であると考えられます。(posted by TS)

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"Evolution of the Fermi surface of BaFe2(As1-xPx)2 on entering the superconducting dome"
H. Shishido, A. F. Bangura, A. I. Coldea, S. Tonegawa, K. Hashimoto, S. Kasahara, P. M. C. Rourke, H. Ikeda, T. Terashima, R. Settai, Y. Onuki, D. Vignolles, C. Proust, B. Vignolle, A. McCollam, Y. Matsuda, T. Shibauchi, and A. Carrington
Phys. Rev. Lett. 104, 057008 (2010); arXiv:0910.3634.


新鉄系高温超伝導体の超伝導電子密度の異常な不純物効果 ページのTopへ

従来のBCS超伝導体では非磁性不純物を導入しても超伝導への影響は少なく、転移温度やエネルギーギャップ、また超伝導電子密度の温度依存性はほとんど変化しないことが「Andersonの定理」として知られています。これに対し、秩序変数の符号反転を伴う非従来型の異方的超伝導では不純物導入により低エネルギー励起が大きく変化し、超伝導電子密度に大きく影響することが期待されます。今回、新型の鉄系高温超伝導体において、様々な不純物散乱を持つ単結晶の超伝導電子密度の温度依存性を調べたところ、散乱率の大きさに大きく依存することが明らかとなりました。この結果はこの超伝導体が新しいタイプの非従来型超伝導体であることを示唆しています。(posted by TS)

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"Microwave Surface-Impedance Measurements of the Magnetic Penetration Depth in Single Crystal Ba1-xKxFe2As2 Superconductors: Evidence for a Disorder-Dependent Superfluid Density"
K. Hashimoto, T. Shibauchi, S. Kasahara, K. Ikada, S. Tonegawa, T. Kato, R. Okazaki, C. J. van der Beek, M. Konczykowski, H. Takeya, K. Hirata, T. Terashima, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 102, 207001 (2009); arXiv:0810.3506.


重い電子系URu2Si2の「隠れた秩序」相内に新たな相転移を発見 ページのTopへ

重い電子系化合物URu2Si2では17.5 Kで比熱が大きな跳びを示し、その相転移の起源をめぐって様々な研究が行なわれています。特に、他の重い電子系で観測されているような反強磁性や強磁性など磁性は観測されておらず、その秩序変数の実体は20年以上も未知となっています。最近育成された純良単結晶を用いてこの「隠れた秩序」相内で高磁場輸送特性を調べたところ、新しい相転移を示唆する22テスラ近辺でホール抵抗の明瞭な跳びと、より高磁場で新しいフェルミ面の出現に起因した量子振動現象が観測されました。これは、「隠れた秩序」がバンドごとに大きさの異なる秩序変数を持ち、磁場により秩序が多段階で壊れることを示唆しており、隠れた秩序の解明に大きなヒントを与える結果であると考えられます。 (posted by TS)

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"Possible Phase Transition Deep Inside the Hidden Order Phase of Ultraclean URu2Si2"
H. Shishido, K. Hashimoto, T. Shibauchi, T. Sasaki, H. Oizumi, N. Kobayashi, T. Takamasu, K. Takehana, Y. Imanaka, T. D. Matsuda, Y. Haga, Y. Onuki, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 102, 156403 (2009); arXiv:0903.3821.


鉄砒素系超伝導体の下部臨界磁場を新しい手法で評価 ページのTopへ

第2種超伝導体に磁場をかけていくとマイスナー状態では磁場は排除され、下部臨界磁場に達したとき渦糸の侵入が始まります。これまでこの下部臨界磁場の評価には主にバルク磁化測定が用いられてきましたが、そのような手法では渦糸のピン止めに起因する試料全体の不均一な磁化を平均して測定してしまうという問題点があり、下部臨界磁場の決定は非常に困難でした。そこで今回、微小なホール素子をアレイ状に並べた素子を使用し、試料端からの磁束の侵入を精密に測定することによって鉄砒素系超伝導体PrFeAsO1-yの下部臨界磁場の決定に成功しました。またさらにその異方性を測定したところ、この系では2次元的なフェルミ面が超伝導発現により関わっていることを示唆する結果が得られました。 (posted by RO)

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"Lower critical fields of superconducting PrFeAsO1-y single crystals"
R. Okazaki, M. Konczykowski, C. J. van der Beek, T. Kato, K. Hashimoto, M. Shimozawa, H. Shishido, M. Yamashita, M. Ishikado, H. Kito, A. Iyo, H. Eisaki, S. Shamoto, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Phys. Rev. B 79, 064520 (2009); arXiv:0811.3669.


新鉄系高温超伝導体のギャップにゼロ点がないことを解明 ページのTopへ

2008年に東工大グループにより鉄を含む新高温超伝導体が発見されました。これは、サイエンス誌の2008年10大ニュースの一つにも選ばれ、現在の物理学の大きなトピックスとなっています。基礎物理学としての最重要課題は、その超伝導機構を明らかにすることですが、その上で、欠かせないのが超伝導ギャップ構造の同定です。現在までに、多結晶試料を用いた研究では銅酸化物高温超伝導体同様のゼロ点を持つ構造ではないかと示唆されてきました。これに対し、我々は世界で初めて単結晶試料を用いてこの問題を調べ、磁場侵入長の温度依存性が低温で一定値に近づく振る舞いを示すことから、ゼロ点がないギャップ構造であることを突き止めました。これは新しい鉄系超伝導体が銅酸化物とは異なる性質を示すことを意味する重要な結果です。 (posted by TS)

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"Microwave Penetration Depth and Quasiparticle Conductivity of PrFeAsO1-y Single Crystals: Evidence for a Full-Gap Superconductor"
K. Hashimoto, T. Shibauchi, T. Kato, K. Ikada, R. Okazaki, H. Shishido, M. Ishikado, H. Kito, A. Iyo, H. Eisaki, S. Shamoto, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 102, 017002 (2009); arXiv:0806.3149.