当研究室で得られた研究成果の一部をご紹介します。


2008年11月 二次元三角格子系におけるスピン液体状態にエネルギーギャップが存在することを発見

2008年7月 高温超伝導体中の渦糸のエンタングルメントを観測

2008年5月 重い電子系超伝導体CeIrIn5の超伝導機構解明へ新たな結果

2008年5月 高温超伝導体の“奇妙な金属”状態が磁場により消えることを発見

2008年1月 重い電子系超伝導体URu2Si2の磁束格子融解転移の発見

2007年12月 パイロクロア超伝導体KOs2O6のラットリング転移に伴う渦糸の再配置

2007年9月 重い電子系超伝導体CeCoIn5の超伝導薄膜作製に成功

2007年9月 重い電子系超伝導体URu2Si2の超伝導対称性の決定



二次元三角格子系におけるスピン液体状態にエネルギーギャップが存在することを発見 ページのTopへ

二次元三角格子上に互いに反対を向こうとするスピンを配置すると幾何学的なフラストレーションが生じてしまいます。特に量子揺らぎの影響が最も顕著に現れるスピン1/2の場合には最低温度状態においても長距離秩序を持たないスピン液体と呼ばれる状態が現れることが理論的に予測されていましたが、その正体、特に最低エネルギー励起がどうなるかといった熱力学的特性は謎に包まれていました。 この問題を明らかにするため、スピン液体状態となっていることがNMR測定などから明らかになった有機モット絶縁体κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3のスピン液体状態の熱伝導率測定を80mKの極低温まで行い、このスピン液体状態が最低励起に有限のエネルギーギャップを持つ種類のスピン液体状態であることを明らかにしました。驚くべきことに、実験結果から求められたギャップの大きさは理論的に予測されていた大きさよりもずっと小さいものであることがわかりました。これらの結果はスピン液体状態に関する、まだ完全に理解しえていないその本質の一部を示しているものと考えられます。 (posted by MY)

YamaNtPh.jpg
最低温度領域における熱伝導率測定の結果。ギャップレスだったときに現れるkappa/T項が低温極限で現れないことを示している。図中左上の図は三角格子におけるフラストレーションの模式図で、右下の図はkappa-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3における三角格子の様子。二量体化したBEDT-TTF分子上のスピン1/2がt'/t≒1の理想的三角格子を実現している。

"Thermal-transport measurements in a quantum spin-liquid state of the frustrated triangular magnet kappa-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3"
Minoru Yamashita, Norihito Nakata, Yuichi Kasahara, Takahiko Sasaki, Naoki Yoneyama, Norio Kobayashi, Satoshi Fujimoto, Takasada Shibauchi, and Yuji Matsuda;
Nature Physics 5, 44-47 (2009).


高温超伝導体中の渦糸のエンタングルメントを観測 ページのTopへ

エンタングルメント(からみあい)の概念は量子コンピュータや超伝導体の物理など、様々な場面で重要な役割を果たします。磁場中の第2種超伝導体における量子化された渦糸は、エンタングルメントを促進ような欠陥を導入することで、渦糸同士がもつれ合うことにより動きにくくなり、ゼロ抵抗を実現できる限界の電流密度を大きくできる可能性が理論的に示唆されてきました。今回、ビスマス系高温超伝導体中のBi原子を核分裂させることで、下図のような様々な方向に伸びる柱状欠陥を導入し、その渦糸状態をジョセフソンプラズマ共鳴という方法で調べました。その結果、低温低磁場領域で渦糸が絡み合いにより臨界電流密度が増大した、スプレイドグラスという新しい状態が実現していることが実験的に初めて明らかになりました。 (posted by TS)

KatoPRL2008.jpg

"Entanglement of Solid Vortex Matter: A Boomerang Shaped Reduction Forced by Disorder in Interlayer Phase Coherence in Bi2Sr2CaCu2O8+y"
T. Kato, T. Shibauchi, Y. Matsuda, J. R. Thompson, and L. Krusin-Elbaum
Phys. Rev. Lett. 101, 027003 (2008); arXiv:0806.2352.


重い電子系超伝導体CeIrIn5の超伝導機構解明へ新たな結果 ページのTopへ

重い電子系化合物における超伝導は、しばしば反強磁性秩序の近傍に出現することが知られています。このような超伝導がおこる起源については、従来の格子振動を媒介とするものではなく、反強磁性ゆらぎが媒介となったものが有力な候補です。このような場合には、超伝導の対称性が従来の等方的なs波ではなく、角度によって符号を変える異方的なものであると考えられ、実際に反強磁性近傍の超伝導体では、異方的な対称性が見いだされています。CeIrIn5では、反強磁性から遠く、図のように転移温度が2つめの山に位置するために反強磁性ゆらぎ以外の価数揺動などの新しい機構についても検討がなされてきました。今回我々の熱・電気輸送測定実験により、(1)反強磁性近傍と同じ対称性dx2-y2をもつ超伝導であること、(2)反強磁性ゆらぎがまだ残っており、常伝導状態の物性にその効果が現れること、の2点が新たに明らかとなりました。これらの結果は、この系の超伝導機構は、おそらく価数揺動によるものではなく、反強磁性ゆらぎによるものが有力であることを示すものです。 (posted by TS)

KasaharaPRL2008.jpg

  1. "Thermal conductivity evidence for a dx2-y2 pairing symmetry in the heavy-fermion CeIrIn5 superconductor"
    Y. Kasahara, T. Iwasawa, Y. Shimizu, H. Shishido, T. Shibauchi, I. Vekhter, and Y. Matsuda
    Phys. Rev. Lett. 100, 207003 (2008); arXiv:0712.2604.
  2. "Magneto-Transport Properties Governed by Antiferromagnetic Fluctuations in the Heavy Fermion Superconductor CeIrIn5"
    Y. Nakajima, H. Shishido, H. Nakai, T. Shibauchi, M. Hedo, Y. Uwatoko, T. Matsumoto, R. Settai, Y. Onuki, H. Kontani, and Y. Matsuda
    Phys. Rev. B 77, 214504 (2008);arXiv:0804.2624.
    * Editors' suggestion

高温超伝導体の“奇妙な金属”状態が磁場により消えることを発見 ページのTopへ

超伝導は電気抵抗がゼロとなる現象ですが、温度を上げたり磁場をかけたりすると超伝導が壊れ、電気抵抗が発生した金属状態となります。銅酸化物高温超伝導体は、1986年の発見直後から、電気抵抗が普通の金属とは違う温度変化を示すなどの異常性が見出され、物理学の大きな問題となっています。この原因が特定できれば、高温超伝導の機構解明に重要な手がかりとなると考えられています。 今回、タリウム系とよばれる高温超伝導体の電気抵抗を磁場中で詳細に調べた結果、45テスラという強い磁場中では異常性が消え、普通の金属に戻ることを発見しました。この結果は、高温超伝導発現に磁気的な機構が働いていることを明快に示しているだけでなく、絶対零度において量子相転移とよばれる新しい現象が存在することを示しています。 (posted by TS)

ニュースリリースはこちら

この研究結果に関する記事が京都新聞(5月13日夕刊10面)、産経新聞(5月14日24面)、日経産業新聞(5月14日10面)、毎日新聞(7月20日朝刊全国版科学面)に掲載されました。

ShibauchiPNAS2008.jpg

"Field-Induced Quantum Critical Route to a Fermi Liquid in High-Temperature Superconductors"
T. Shibauchi, L. Krusin-Elbaum, M. Hasegawa, Y. Kasahara, R. Okazaki, and Y. Matsuda
PNAS 105, 7120-7123 (2008); arXiv: 0805.2215.


重い電子系超伝導体URu2Si2の磁束格子融解転移の発見 ページのTopへ

第2種超伝導体に磁場をかけると、量子化された渦糸という形で磁束が侵入し、その渦糸同士に反発力が働くことから、格子を組むことが知られています。温度が100 K程度と高い高温超伝導体では大きな熱揺らぎのためにこの格子が融けて液体となる相転移が発見され大きな話題となりました。温度の低い超伝導体ではこのような融解転移は通常見られません。ところが、強い電子間相互作用のため有効質量が100倍近くにも増強された「重い電子系」とよばれる化合物では、極低温でも重い電子のために熱揺らぎの効果が驚くほど強められ、URu2Si2においてそのキャリア数の少なさとあいまって、1 K程度の極低温において磁束格子融解の相転移が発見されました。 (posted by TS)

OkazakiPRL2008.jpg

"Flux Line Lattice Melting and the Formation of a Coherent Quasiparticle Bloch State in the Ultraclean URu2Si2 Superconductor"
R. Okazaki, Y. Kasahara, H. Shishido, M. Konczykowski, K. Behnia, Y. Haga, T. D. Matsuda, Y. Onuki, T. Shibauchi, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 100, 037004 (2008); arXiv: 0710.2382.


パイロクロア超伝導体KOs2O6のラットリング転移に伴う渦糸の再配置 ページのTopへ

わが国で発見された比較的高い超伝導転移温度(9.6 K)を持つパイロクロア超伝導体KOs2O6では、その結晶構造にかご型の空間が存在し、その中でKイオンが動き回る「ガラガラ(赤ちゃん用のおもちゃ)」のようなラットリングという現象が起きています。超伝導転移温度より低い温度(約8 K)において、比熱のとびが見つかり、1次相転移の存在が最近明らかになってきました。この相転移ではラットリングの動きが変化しているのではないかと考えられています。この相転移近傍での超伝導体中の磁場分布を調べたところ、超伝導体中の渦糸の分布が1次転移以下で予想以上に大きく変化することが明らかとなりました。このことは、ラットリングが超伝導に少なからず影響を及ぼしていることを示しており、ラットリングと超伝導の関係を明らかにする上で重要な結果であると考えられます。 (posted by TS)

ShibauchiPRL2007.jpg

"Vortex Redistribution below the First-order Transition Temperature in the b-Pyrochlore Superconductor KOs2O6"
T. Shibauchi, M. Konczykowski, C. J. van der Beek, R. Okazaki, Y. Matsuda, J. Yamaura, Y. Nagao, and Z. Hiroi
Phys. Rev. Lett. 99, 257001 (2007); arXiv: 0710.5781.


重い電子系超伝導体CeCoIn5の超伝導薄膜作製に成功 ページのTopへ

CeCoIn5はCeを含む重い電子系超伝導体で最も高い転移温度(2.3 K)をもち、新奇高磁場超伝導相(FFLO相)の存在、磁場誘起量子臨界現象、非フェルミ液体的な常伝導状態など、数多くの異常物性を示すことから、非常に注目されている物質です。現在まで、単結晶を用いた研究が行われましたが、バルク物性測定に測定手法が限定されていました。薄膜化することで光電子分光、トンネル分光など表面敏感な測定や、微細加工によるパイ接合などの位相分解可能な測定への道が開けることが期待されます。Ce元素は非常に酸化されやすいため、なかなか良質な薄膜を得ることが困難でした。私達は低温物質科学研究センター(寺嶋研究室)と共同で、分子線エピタキシー法という超高真空下での薄膜作製技術を用いて、バルク結晶と遜色のない超伝導特性を示すc軸配向薄膜の作製に成功しました。(posted by TS)

IzakiAPL2007.jpg

"Superconducting Thin Films of Heavy Fermion Compound CeCoIn5 Prepared by Molecular Beam Epitaxy"
M. Izaki, H. Shishido, T. Kato, T. Shibauchi, Y. Matsuda, and T. Terashima
Appl. Phys. Lett. 91, 122507 (2007).


重い電子系超伝導体URu2Si2の超伝導対称性の決定 ページのTopへ

強相関電子系では、しばしば超伝導ギャップにゼロ点(ノード)があらわれる非従来型の超伝導が実現し、その超伝導が反強磁性や強磁性などの磁気秩序と共存することが知られています。重い電子系超伝導体URu2Si2では、他の超伝導体とは異なり、非磁性の「隠れた秩序」とよばれる相と超伝導が共存し、その機構解明に向けて多くの研究がなされています。最近、非常に純良な単結晶試料が育成され、それを用いて電気・熱輸送特性を調べた結果、非常に奇妙な超伝導状態にあることが明らかとなってきました。隠れた秩序相ではキャリア数が非常に少なく、電子とホールが同数存在する半金属的な電子状態であり、電子バンドとホールバンドで、ギャップのノードがそれぞれ点状のものと線状のものとを持つことが実験的に初めて明らかになりました。この結果から、URu2Si2では、下図に示すようなカイラルd波の対称性を持つ超伝導が実現しているのではないかと考えられます。この対称性は時間反転対称性を破る新しいタイプのスピン一重項超伝導状態であり、今後のさらなる展開が期待できます。 (posted by TS)

KasaharaPRL2007.jpg

"Exotic Superconducting Properties in the Electron-Hole Compensated Heavy Ferimon `Semimetal' URu2Si2"
Y. Kasahara, T. Iwasawa, H. Shishido, T. Shibauchi, K. Behnia, Y. Haga, T. D. Matsuda, Y. Onuki, M. Sigrist, and Y. Matsuda
Phys. Rev. Lett. 99, 116402 (2007).